出現5

コカトリスは眞榮城ずずが旅立ってからというもの泣き暮らしていた。コカトリスはある冬の日、眞榮城ずずの燭台の炎に身を投じて焼け焦げていた蛾だった。眞榮城ずずがそれを捕まえ、水盤に人の姿で映し出したことによって人間となったのである。正確には、そのようなことが現にあったわけではなく、ただ水盤がそのような光景を映し出したに過ぎないのだが、同じことだ。

泣きながらずっと水盤の前に座っていた。水盤は何も映し出さないまま、夏の夜が、冬の朝に取って代わった。季節ごとに、うなじに給食を挿して構造を維持する。コカトリスは、水盤をうまく見るには自分が人間であることを忘れなくてはならないのだと知っていた。鉄格子のはまった窓から落ちる影は、一年の間に一度だけ、バーコードとして読み取り可能になる。しかしコカトリスはそのようなものには目もくれず水盤を見続けた。

低位の部員がコカトリスの世話をした。矮躯の4本腕のウジュテは、第三代水盤見部長の御代から部に仕えているのだという。コカトリスの頭からいくつもの菌類が生え、コカトリスの躰は苔に覆われた。コカトリスの目は黴に覆われ、コカトリスは呼吸を忘れた。コカトリスの躰から暗闇が分泌され、部室を抜け出して方々で悪さを成した。それでも水盤は何も映し出すことはなかった。