日記

 文章を書いてみたんだけど何だか釈然とせずパッとしない。それは当たり前のことなので、愚痴を言いたいわけではない。最近なにも書いてないからともかく何でもいいから書いてみようというだけの動機でいきなり書き始めてそんな事でおもしろいのが書ければ世話はない。
 ともかく書けば、自分の関心がわかりはする。それは具体的に生活のなかでとても役立つ。



 イメージと事実がいつも乖離している。毎日、不安な夢、恥ずかしい夢、居心地の悪い夢ばかり見る。その夢が起きている間もずっとべったり貼り付いている。自分でみんなウソだとわかっている。その、現実が自分のイメージに侵食されているという気分が書くものに反映されていると思う。現実について感じている別の問題と混淆しながら。



 嘘をついたり隠したり誤魔化したりで言語活動が構成されている気がしていやだ。だからといってとくに真実に関心があるわけでもない。本当だがつまらないことはいくらでもある。ただ、必要なこと、自分にとって重要なこと、を話したいという気分はある。



 あるきっかけから、「寒い」という言葉がとても強く頭に浮かんでくるようになった。「寒い」と書く頻度が爆増したと思う。どうもこれが書くのに邪魔になる。



 報酬への反応が強く、罰回避の傾向が弱い人間が楽しそうで羨ましい。僕はその逆でなんとも詰まらないと思う。頭の内側にべったり海苔が貼り付いたような気分でいつもいる。昨日『この世界の片隅に』を観たせいで海苔のイメージが強く出てしまった。ずっと前から妙に老婆のイメージが強く頭にある気がする。さっき書いたのにも「祖母」が出てきたし。義の祖母が、とりわけその金歯と笑顔が嫌いなことと関係があるのだろうか。



 文章がパッとしないと書いたけど、

おや、おや。一体どういうことだろう。祖母にあれほど警告されていたのに私は簡単に真実を見てしまったのだろうか。あっさりと真実の罠にかかり、それに取り込まれてしまったのだろうか。人は簡単に真実に落っこちてしまうから、ちゃんとバランスを取って歩きなさいとあれほど言われていたのに】
「どうにもならない。また鼠になって走るさ。影がいつもともにある」
「月や街の灯りが?」
「夜のサイレンや、サイダーの泡や、立ったまま眠るキリンや、ともかく何かはだ。何になるかは知らない。深い海の底の退化した目かも」】
 私はくずおれ、泡を吹いて痙攣し、自分の絶命をしっかり見るために目を大きく見開きながら洗濯物を籠に放り込み、折しも迷い込んだ蝶に目をやって、サンダルを鳴らし、家に帰ってゆく。目が慣れてなくて、家の中に影がぎゅうぎゅうに詰まっているように見える。食事の支度をする。明日起きる準備をする。首に下げた十字架のネックレスを引きちぎり、それを遠い崖下に放る。何も肯定せず、何も否定しない。】

 という三箇所だけは自分でちょっと気に入ってて、まあ何か書けば1個か2個か3個くらいなんとなく気に入るところは出てくる。人に読ませたいほどの出来にならなかったとしても、読む理由のない文章だから書く理由のない文章だということにはならず、書く理由としてはそれで充分だと感じる。