『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』観た

お祓いでした。 シンエヴァはお祓いでした。 苦悩と怨念に満ちた、この異常な虚構が最後に救いを求めたものは、やはり虚構でした。 この作品が、現実を肯定できるものとするために行ったことは、虚構を肯定することでした。 碇シンジが25年かけてたどり着き…

日記

文章を書いてみたんだけど何だか釈然とせずパッとしない。それは当たり前のことなので、愚痴を言いたいわけではない。最近なにも書いてないからともかく何でもいいから書いてみようというだけの動機でいきなり書き始めてそんな事でおもしろいのが書ければ世…

全ての日

緑色の砂漠だった。月に照らされて透き通った海のようにさらさらと耳に鳴る。まるで夢の縁に立っている思いだった。この煌めく緑の砂すべてが、ケムミァーンの父祖たちであるのだろうか。 ケムミァーンは氷から生まれたと聞かされていた。本当のところは知ら…

セブン小僧

浮遊エビの透き通った脚を見つめるうちにすっかり上の空になって、黄枝誘(さそい)の話をまるきり聞き逃してしまった。 ひとつの世界にチューニングを厳密に合わせ続けるのは私には難しいことで、大まかに固定することはできるにしても、気がつくとすぐに振…

犀の顔をした仏

犀の顔をした仏様がこの病院にはいらっしゃる、と祖母は白い光、白いカーテンとシーツに覆われた白い顔で訴えた。その手は薄汚れた包帯のように力なくベッドにわだかまり、薄暗い影をつくっていた。ブラウン管に映ったノイズまじりの映像や、とぎれとぎれの…

手すさび1

影には、影との約束がある。誰しもが忘れたものを影は忘れていない。日が傾くにつれ伸びてゆく影は、人が触れたものに指紋を残してゆくように、見る者の心に、その約束を少し残してゆく。それで人は首をひねる。静けさ以外に、騒がしいものは何一つないのに…

テーブル

ウクルーカビンは以後あらゆる人間との関係を絶って一人の家で貯金を食いつぶして暮らしたのだが、その時に作曲し一人で奏でた音楽はいずれもそれまでどのような努力を以てしても届きえなかった高みにあった。孤独がそれを聴いた。 ウクルーカビンの日々は、…

出現9

この世を一つのチェスとして、そのチェスの必勝法を解析し遂せたペュォオンテは、また自らの全ての行いの最終的な結果を予見することができた。そこでペュォオンテは遠い未来に実を結ぶことになる一つの指し手を示したのだが、その結果はこれからこの物語で…

出現8

バッハの対位法を想起せよ。すべて美しいもの、完全なるものはパターンの反復と変奏の調和より成る。ちょうど私たちの校舎のように。我々を取り巻くこの世界には、一つの《主題》が存在する。 これは、その《主題》の物語。 全ての物語がその変奏である物語…

出現7

クジュテメシナは遺伝子改造によって毛皮を備えて生まれた男から剥いだ人皮のファーコートを着込んで3年2組で開催される生徒会に現れた。部屋の中心には直径3cmほどの円柱となって床と遥かに高い天井をつないでいる今代生徒会長ツナギ・アルケプヒュラがいた…

出現6

飼育していたネオンテトラの一匹が《共和国》の一員であった事件が判明して以来、水族館部ピケンダール支所の雰囲気はあまりよくなかった。副支所長ケアン・シャパーは聖母像の頭を蹴りつけると、(ピケンダールにはカ・クヴェール戦争で破壊された聖母像の…

出現5

コカトリスは眞榮城ずずが旅立ってからというもの泣き暮らしていた。コカトリスはある冬の日、眞榮城ずずの燭台の炎に身を投じて焼け焦げていた蛾だった。眞榮城ずずがそれを捕まえ、水盤に人の姿で映し出したことによって人間となったのである。正確には、…

出現4

初代校長の名は知られていない。伝承により、シャムト、ヘステ、アレイスなどとされる。その姿は真円とも楕円とも、獅子とも波形とも太陽ともされる。彼が実在したトトゥク族の祖王であったことについてはほぼ間違いのないこととされている。だが、それらを…

出現3

「《誰にも読めない書物》……」 眞榮城ずずの呟きは部屋の暗闇に吸われていった。暗闇は円柱と円錐と球体に分解することが可能だ。その円柱と円錐と球体を眞榮城ずずの呟きは撹拌した。 眞榮城ずずは水盤見部長だ。部室の中心にある直径2メートルほどの水盤を…

出現 2

暗かった。体育館倉庫から地下に繋がる長い長い階段をランタンを頼りに降りていった。10分もの間、自分が白い埃の積もった薄い金属の段を踏む音を聴いていた。どうしてもそうしなくてはならなかった。地下一階に着いた。まっすぐの一本道。地下道は湿ってい…

出現 1

戸中井さそりは高名な死霊術師で、極端な人嫌いとして知られている。中学生だった頃に書いた「悪」というなろう小説が高校入学直後に出版され、15歳で商業デビューしたラノベ作家でもあり、文芸部では伊伊島よろいと並んで顔役のような存在だ。彼女は今日も…

私の星を埋め尽くす希望の昆虫

私は自分の呪いで化粧をする。ほどけた冗談を結んで首に掛ける。憎悪を爪に塗る。私は死んだ自分の怨霊であると確信している。首吊りの縄。首吊りの縄! それが私の母! 天使! それは罪と穢れの塊だ! 私は倒れたビーカーから偶然に生まれたのだという。父…

解剖台時計

解剖台時計が笑うと世界も笑う。解剖台家に生まれた人間は必ず炎のなかで死ぬことが決まっており、無数の篝籠を擁する冷たい青銅の屋敷でやがて自らが還る炎を見つめて育った彼女は自分の死を呼吸し自分の死でこの世を見て、自分の死を食べ自分の死で遊び自…