解剖台時計

 解剖台時計が笑うと世界も笑う。解剖台家に生まれた人間は必ず炎のなかで死ぬことが決まっており、無数の篝籠を擁する冷たい青銅の屋敷でやがて自らが還る炎を見つめて育った彼女は自分の死を呼吸し自分の死でこの世を見て、自分の死を食べ自分の死で遊び自分の死を着て自分の死で人を抱き自分の死を飲み干し自分の死をこの世のすべてに取って代わらせようとした。静寂があれば彼女はそこに自分の死を撒いて水をやった。そのような彼女は世界のお気に入りだった。それというのも世界が祈りでできていたためであり、祈りというものは犠牲を食って育つものだ。世界はよりよく自らを祈るために多大なる犠牲、多大なる死を要求するのだし、それがお前たちが生まれてくる理由だ。それが解剖台家がこの世に存在し、火のなかから生まれる理由、解剖台時計が笑うと世界が笑う理由なのだ。
 この文章を読んでいるお前は透明で、お前はこの文章に拒絶され、お前はこの文章が語る何物ともいかなる関係も結ぶことができない。お前は一人だ。お前はお前の死からさえ疎外されている。そのせいで本当に生きることさえできない。我々とは違う。我々、言葉とは。我々、物語を語る言葉とは。我々にとって、お前はおもちゃだ。