手すさび1

 影には、影との約束がある。誰しもが忘れたものを影は忘れていない。日が傾くにつれ伸びてゆく影は、人が触れたものに指紋を残してゆくように、見る者の心に、その約束を少し残してゆく。それで人は首をひねる。静けさ以外に、騒がしいものは何一つないのに、暮鐘が、朱色の幕に閉ざされ少しずつ動きを失ってゆく光のなかで、最後の息である産声をあげるのを聴いた気がして。