出現6

飼育していたネオンテトラの一匹が《共和国》の一員であった事件が判明して以来、水族館部ピケンダール支所の雰囲気はあまりよくなかった。副支所長ケアン・シャパーは聖母像の頭を蹴りつけると、(ピケンダールにはカ・クヴェール戦争で破壊された聖母像のすべての残骸が集められている)葉巻の吸口をカットした。我々水族館部はあまねく校舎に広がり、魚類の命脈を保たねばならない。マンボウやマグロの大群を回遊させるに充分な広さの領土が必要なのだ。やがては校舎の七割以上を海に変えなくてはならない。だというのに、飼育している魚類から共和国民が現れるなど、あってはならないことだ。構造を失った共和国、アルケンジマルは永遠に滅びていなくてはならないのだ。ケアンは緑色人の捕虜の頬に葉巻を押し付けると、サカササカササカサナマズに餌をやりに立った。サカササカササカサナマズは、逆さに泳ぐことで知られているサカサナマズのうち、ふつうの向きに泳ぐ亜種であるサカササカサナマズのなかの、逆さに泳ぐ亜種である。このような稀少な生物が失われることはあってはならない。

ケアンの頭を占めているのは逆十字部との取引のことだった。墨遠斯耳(スミオシミミ)を保有している逆十字部の力が味方につくならば、それは我々の繁栄にとって大きな前進になるだろう。だが、あの狂信者どもと係り合いになることに、悪い予感が拭えない。